【個人的メモ】HMT(ヘキサメチレンテトラミン)の利根川水系流出事件

5月19日(土)、利根川水系の浄水場で水道法の基準値(0.08mg/L)を超えるホルムアルデヒドが検出され、利根川水系を水源とする千葉県我孫子市や柏市等、一部自治体で断水する騒ぎが発生した。

 利根川水系から取水する首都圏の浄水場の水道水から有害物質ホルムアルデヒドが検出された問題で十九日、千葉県では柏、野田、流山の三市の全域と八千代、我孫子両市の一部で断水し、計約三十四万四千世帯に影響が出た。
(2012年5月20日 東京新聞朝刊

原因は利根川水系に注ぐ烏川に由来するとみられ、埼玉県と群馬県は原因を調査した。当初は烏川沿いにありホルムアルデヒドを使用する製造業者から流出したものという推測もあったが、立ち入りした結果は基準値以下で原因の早期特定には至らなかった。
  【5月20日】浄水場等からの水質基準値を超えるホルムアルデヒドの検出を受けた河川水の調査結果について(環境保全課)

その後の5月25日(金)、調査が進展してDOWAハイテックの産業廃棄物に含まれるHMTが原因であると報じられた。

関東の利根川水系の浄水場で水質基準を超えるホルムアルデヒドが検出された問題で、埼玉県は25日、原因物質とされるヘキサメチレンテトラミンの処理を委託された群馬県高崎市内の産廃処理業者が、利根川支流の烏川に排出した可能性が高いと発表した。

 埼玉県によると、同県本庄市の化学品製造業「DOWAハイテック」が廃液の処理を烏川流域の産廃処理業者2社に依頼。うち1業者が中和処理した廃液を烏川に放出していたとみられるが、この業者の施設は原因物質に対応していなかった。 埼玉県の調査に業者側は「ヘキサメチレンテトラミンが含まれているとは知らされていない」と話している。一方、DOWA社は「廃液の分析値を示しており(業者が)適正に処理していればなんら問題にならない」とした。

 同物質は工場廃水を規制する水質汚濁防止法や、廃棄物処理法で有害物質として規定されていないが、埼玉県は25日、DOWA社に立ち入り検査し、業者との委託契約の内容などの報告を求めた。廃棄物処理法に基づく告知義務違反に当たらないか慎重に調べている。
(2012年5月25日 日本経済新聞

各紙の情報をまとめると以下の通りとなる。

5月10日、群馬県高崎市の産廃処理業者「高崎金属工業」は埼玉県本庄市のメッキ加工メーカー「DOWAハイテック」からHMT含有の廃液60トンの処理を請け負った。これはDOWAハイテックが通常時に委託していた産廃処理業者がトラブル発生により処理不可だったための代替措置だったようだ。

同社では廃液に含まれる含有物質と水分の分離処理を行い、上澄み分は川に排出、残りは産廃業者に処分を委託して再発を防止していたという。

 しかし、5月中旬ごろ、業者側のトラブルなどで一時的に代替業者が必要になり、廃液は高崎市内の産廃業者2社に臨時に委託することになった。このうち、1社は焼却処理したが、もう1社は通常の中和処理で対応、HMTの十分な排除には至らなかった。
(2012年5月25日 産経新聞

しかし、高崎金属工業の廃液処理は中和処理施設のみで、HMTを処理する能力を有していなかった。よってHMTは未処理のまま排水として烏川に放流された。HMTはゴムを加硫する際に使用される物質で、強酸・酸化剤環境下で有毒ガス(ホルムアルデヒド、アンモニア、シアン化水素など)を発生させる。そのため、HMTを含む河川水を消毒するために浄水場で添加された塩素が、ホルムアルデヒドを生成させたものと考えられる。
  1,3,5,7‐テトラアザトリシクロ[3.3.1.13.7]デカン(別名:ヘキサメチレンテトラミン)

さて、現在判明している問題点を追ってみよう。

廃棄物処理法では、排出事業者が事業活動により発生した産業廃棄物の処理に責任を持っている。そのため、同法では排出事業者が産業廃棄物の性状を把握し、それを適正に処理できる産廃処理業者に委託し、ちゃんと最終処分が行われたかマニフェストを通じて確認する必要がある。また、委託先の業者が適正処理可能かどうか、排出事業者は現地に行って確認をしなければならない。これが産廃処理の大原則である。よって単純にいえば、排出事業者側が適正な情報開示をせずに処理委託をしたならば全面的に排出事業者側の責任である。一方、排出事業者が適正な情報開示をしているにも関わらず、受託側が意図的に適正処理できないのを隠蔽していたのであれば、産廃処理業者側が悪いということになる(それでも事前調査不足ということで排出事業者の責任は免れないだろう)。

だが今回の問題をややこしくしているのは、HMTが廃棄物処理法上の有害物質には指定されておらず、HMTの存在を廃棄物データシート(WDS)の項目に記載しなくても法的責任を問われないし、HMTを放流すること自体に何ら法的問題がない点である。そのため、DOWAハイテックは告知義務のないHMTの存在を高崎金属工業に知らせないまま処理委託したのが実際のようだ。

 利根川水系から取水する首都圏の浄水場で検出された有害物質ホルムアルデヒドの原因物質は、水質汚濁防止法では河川に排出する規制の対象外で、廃棄物処理法も委託会社の告知義務に抵触するか明記していない。埼玉県からは「産業廃棄物処理業者の法的責任を問うのは困難」との声が出ている。
 厚生労働省などは原因物質を、ゴムや合成樹脂加工に使われるヘキサメチレンテトラミン(HMT)と特定。浄水場で使われる塩素と反応すると、ホルムアルデヒドがつくられる。
 水道法に基づく水質基準は、ホルムアルデヒドの基準値を一リットル中〇・〇八ミリグラムと規定。一方、工場排水の基準を定める水質汚濁防止法で、HMTは「環境への影響がない」(環境省水環境課)と規制の対象外としている。
(2012年5月26日 東京新聞朝刊

ところが9年前の2003年、DOWAハイテックがHMTを工場排水と一緒に流した結果、行田浄水場で高濃度のホルムアルデヒドが生成したという今回の類似事例を起こしている。このときはDOWAハイテックがHMTを排水しない防止措置をとり、また特異事例であるため埼玉県側も法的な規制項目に追加するほどの話ではない、と当時は判断したようだ。

廃棄物処理法施行規則第八条の四の二 第六項には「委託者の有する委託した産業廃棄物の適正な処理のために必要な」情報を契約時に処理業者へ知らせなければならないと記載している。今回、埼玉県側が頻りに「過去事例からHMTの危険性は知っていたはずだ、道義的責任はある」と主張するのも、この条文からDOWAハイテックの責任を問うための布石なのであろう。

 埼玉県行田市の行田浄水場で二〇〇三年に検出された高濃度のホルムアルデヒドは、ハイテック社の排水に含まれるHMTが原因と確認されている。県は「ハイテック社は九年前の問題で、未処理ではホルムアルデヒドになることを知り得ていたはずだ」とみる。
 高崎金属工業はHMTの告知を受けなかったと主張。これに対しハイテック社は取材に「HMTを告知する義務はない」と違法性はないと主張している。
 埼玉県は九年前、排出規制の必要性は見過ごしていた。県は「当時は特異な問題と考えていた。会社が排出対策をとったため、国などに規制を求める必要性はないと判断した」と説明。今回の問題を受け、再発防止のためHMTの排出規制を国に求めている。
(2012年5月26日 東京新聞朝刊

今後はHMTを新しい規制物質として追加するように法改正が行われるだろうが、同様の物質は数百種ある。今回は類似事例から偶然辿ることが出来たが、もし酸化還元反応や分解反応で有害物質を発生させる恐れのある物質を全て盛り込むとしたら、果たしてどれだけのリストになるのだろうか。

 一方、県もDOWAハイテックが疑わしいと思いながらも、ほぼ断定するまで1週間かかった。ホルムアルデヒドを生成する物質が数百種類あり、原因が特定できなかったためだ。
(2012年5月26日 読売新聞

朝日新聞の記事を追記。やはり埼玉県はDOWAハイテックに立ち入り、過去と同様の事例を起こしていないか詳細に調べていたようだ。これだけの大事になっているのだから、法令改正の際に議論されるだろう。恐らく、排出事業者の情報開示に細かい規定が設けられるんだろうな。

 また、埼玉県は19日に調査に来て、残っていた廃液を持ち帰ったが、翌20日には高崎市を通じ、「操業を続けて問題はない」という連絡があったとした。念のため、自分たちでも検査を依頼したが、高濃度のホルムアルデヒドは検出されなかったという。
(2012年5月26日 朝日新聞