谷川道雄『増補 隋唐帝国形成史論』(筑摩書房)

隋唐帝国形成史論

隋唐帝国形成史論

著者である谷川氏は『六朝貴族制研究』の著者である川勝義雄氏ととワンセットで語られるが、実のところ私は谷川氏の著作を読んだことはなかった。偶然にも今日、市立図書館へ立ち寄ったら中国史コーナーに本書が陳列されていた。中国史から見ても重要な著作であることは確かであり、借りて読むのもまた良いのではないか・・・と思った次第である。

さて、まず五胡十六国時代を語る上で重要な先行研究となるのは、内田吟風『匈奴史研究』、それと唐長孺『魏晋南北朝史論叢』であり度々引用されている。西晋は八王の乱・永嘉の乱を経て北部を異民族に奪取されることになったが、その大きな原動力は被支配者層として奴隷的な状況にあった南匈奴が、西晋末の混乱に乗じて匈奴的貴族を中心とした国家樹立という復古運動であったとする。ただし、この復古運動は完全に昔の状況に戻すわけではない。昔ながらの匈奴のあり方は後漢期に実施された南匈奴の征服及び五部族に分割しての統治で崩壊している。この西晋末に起こった南匈奴による国家樹立はその後の漢民族による中国式官制に由来する、と論じる。

その後に成立した慕容氏の燕を含め、著者は匈奴・鮮卑族による国家を

これら国家では帝族の宗室が兵力を分有する傾向があり、そこに軍事的封建制ともいうべきものの存在が指摘される。皇帝権はこうした体制によって大きく掣肘を受けている。特に宗室を代表する人物には強大な兵権が握られ、皇帝権の独裁化を防いでいる。
(第Ⅰ編 第3章「五胡十六国史上における苻堅の位置」)

とその特徴を述べ、中国式の皇帝権力ではなく、彼らの出身である部族連合的な要素がそのまま国家体制に反映されたのであろうと論じている。ただ別の側面として、漢族士大夫を尊重しその官僚機構を受け継いでいる。こうしたバランスの下で匈奴・鮮卑族の政権は成立していたが、皇帝権力の強化を志向してこれらのバランスが崩壊すると、彼らの政権もまた崩壊の方向に転じていった。これを受けて成立した氐族・苻堅率いる前秦も中国伝統の徳治主義政策も相俟って一時は強大な勢力を誇ったが、結局はこの同じ構図を克服することが出来なかった。

この構図を完全に打破するためには諸部族連合的な性格を解消し、府兵制の成立を待たなければならなかった。まず北ギ時代に入ると部落解放が実施され、門閥・賢才主義的な管理制度が整備される。また、北魏時代以降に散見される「城民」や「郷兵」が後の府兵制に結実し、本書ではその概念や成立史を論じている。

以上、本書は特に北朝の動きを制度史的な側面から論述している。本書は1997年に「補編 府兵制国家論」を加えた増補改訂版である。西晋末の混乱で劉淵が自立した後、異民族王朝が如何にして隋唐帝国成立まで制度的な模索を行ってきたかを知るには重要な書物であろうと考える。今日は図書館で借りて読んだが、これは古本屋などで購入し、手元に置いておくべきだと感じた。また改めてこの時代を俯瞰する際の道標としたい。

宮崎市定『大唐帝国』(中公文庫)

大唐帝国―中国の中世 (中公文庫)

大唐帝国―中国の中世 (中公文庫)

本書は大唐帝国について執筆された一般向けの本であるが、実際はその記述の大半が魏晋南北朝の記述に費やされ、またその一部は同著者の『九品官人法』の記述と類似しているため、読んだことがあれば似たような言及があることに気がつくはずである。研究書、というよりはその時代に関する概説書的位置づけのため、むしろ初心者にちょうど良いのではなかろうか。似たような本を挙げるとすれば、岡崎文夫『魏晋南北朝通史』であろうか。現在市販されているのも私が、所有しているのも「内編」しかないが。

また著者の経験というか、戦中期の日本の行動に関する記述が所々見受けられ、その辺は時代を感じてしまう。その辺も学術書ではない気軽さだろうか。

後漢末以後、激動の魏晋南北朝時代を経て、大唐帝国が崩壊するまでの流れを俯瞰したい人にはおすすめである。

礪波護『唐宋の変革と官僚制』(中公文庫)

唐宋の変革と官僚制 (中公文庫)

唐宋の変革と官僚制 (中公文庫)

本書は同著者の『唐代社会政治史研究』という専門書の第1部を文庫化したもので、これに唐末の「安史の乱」から五代十国を経て北宋建国に至るまでの概要を冒頭に追加している。

はっきり言ってわからん。

後漢及び魏晋期をメインとする私には、唐末から北宋初に至るまでの政治的流れがさっぱりだ。地名もだいぶ変わっているし、役職名も大きく違う。しかも唐末には色々な官職が追加されたらしく、馴染みがないものばかり。基礎知識がないのに挑むべき本ではなかったと率直に思う。

ただ資料の豊富さは感じた。『舊唐書』や『新唐書』等の正史は当たり前として、『資治通鑑』『續資治通鑑』『通典』『唐會要』等々、数多の書物が引用されている。三国時代の文献の少なさに頭を悩ませる我々としては正直羨ましいを通り越してどん引きするレベルである。

手持ちの中では『資治通鑑』があるので、これを読んでから改めて接するべき本だと感じた。